トウキョウサンショウウオ調査隊

啓林館より依頼あり 中学理科「実践記録」としてまとめたものが掲載された。

 

http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/tea/chu/jissen/rika/201405/index.html

 

 

トウキョウサンショウウオ:日本固有種の両生類。

1931年(昭和6年)東京都西多摩で発見された。丘陵の森林や水田に生息。

現在、絶滅危惧Ⅱ類に指定。

図版は、「日本産有尾類総説」佐藤 井岐雄 著/昭和18年刊 より

 

現在、トウキョウサンショウウオは、東京都、神奈川県の一部、千葉県南部、福島県などに生息が確認されるが、生息地が連続していないのは、図のように更新世中期(およそ30万年前)に地球温暖化のために海進が起こり、古東京湾ができたためである。

神奈川県内某所トウキョウサンショウウオ生息地:大規模な開発計画があり、将来的には埋め立てられてしまう予定

2008年3月16日撮影

地元の保護活動家が作った、産卵のための「たまり」
トウキョウサンショウウオはこのような深みのある止水環境に集団で産卵する

現地に生息している個体

夜行性で日中は水中に堆積している落葉の下などに隠れている

2008年3月16日撮影。

水量は少なく、しばしば干上がる。
すると、幼生の個体密度が上がり、たがいに捕食しあう率も上がる。

また、アライグマ、アメリカザリガニによる捕食被害も報告されている。

産卵時期は、1~3月で、ヤマアカガエルと重なる

ちなみに、ニホンアカガエルと同種との見分け方は、2本の背側線隆条が平行ならニホンアカガエル、図のように湾曲していたらヤマアカガエルである。

水場はヤマアカガエルの卵塊で埋め尽くされることもある。(上は、ふ化直後のオタマジャクシの群れ)

2001年3月28日。

産卵シーンを動画撮影するための準備。

産卵は深夜~明け方にかけて行われるため、部屋を暗くし、水槽上部の蛍光灯の光は赤いセロファンを通すと良い。

 

 

上は、水槽にすべてのオスを放し、つづいてメスを入れたところ。

オスたちは一斉に枝につかまり始め、場所取りが始まる。

 

数々の失敗の末、撮影に成功。

・まず、メスが自分で枝に卵嚢の一端を付着させ、産み始める

・メスは自分の体重を利用して卵嚢を出そうとするが、自力では出せない

・その様子に気づいたオスがメスから卵嚢を引き出そうとする

・完全に引き出されると、メスはそのまま離れていく

・卵嚢に放精する

・違うオスが近付くと、口を大きくあけて威嚇する

一つの卵嚢に複数のオスが放精するため、同じ卵嚢内でも遺伝的に異なる幼生が誕生する

枝に産みつけられ、受精が終わった直後の卵嚢とオス。

2008年3月16日

この日、産卵シーンを動画撮影するために採集した個体。(産卵後は現地に放流)

6匹のうち、左下(A)と右上(B)の腹部が太いのがメス。

産卵期間中、オスは産卵場付近の水場に長くとどまるためよく発見されるが、抱卵したメスに出会える率は低い。

水槽内で産卵した直後の卵嚢(らんのう)

画像の左の卵嚢対は(A)の個体、右は(B)の個体が産卵したもの。
2008年3月17日

2008年3月18日
ペットボトルの数字は1卵嚢中の卵数を表している。

左から、47個、49個、73個、73個

メスの大きさにより産卵する数もいろいろである。

通常、メスは数年で成熟~寿命は飼育個体で20年以上という例もある。

2008年3月24日
産卵1週間後の卵嚢

水分を含んでクロワッサン型に膨れる

同一卵嚢内でも発生段階が異なることがある

こちらは、比較用に同時期に野外採集した卵嚢


撮影のようす

双眼実体顕微鏡にて撮影
「桑実胚」(32細胞期かな?)

「尾芽胚」

外鰓のもとができはじめる

眼がハッキリしてくる

外鰓は3対

外鰓が伸びる

前肢のもととなる突起が出てくる

外鰓内の血流がよく見えるようになる

体長2cmほど
顔のほおから出ている棒状の突起は「バランサー」である

野外の自然状態の卵嚢は、流されてしまわないように、一端が枝などに固着している(付着端)。サンショウウオはふ化するとき卵嚢のもう一端の細い出口(遊離端)から一匹ずつ出てくるが、渋滞が起こったり、寒天状物質が出口を遮るなどして出られずに死亡する幼生も多い。そのため、飼育下では発生率を上げるために卵嚢の膜をあらかじめ切断してやるとよい。

また、未受精卵や発生がとまった卵は取り除く。

ふ化直後の幼生の口は小さいので、ブラインシュリンプの幼生を与える。

25℃程度の人工海水で、エアレーションは強め。

熱帯魚店で購入したブラインシュリンプエッグスを投入。

卵の投入から24時間でふ化し、上の状態の幼生となる。

海水ごとコーヒーフィルターでろ過(ろ紙だと目が細かすぎて目づまりを起こす)し、真水ですすぐ。
水ごとスポイトでとってトウキョウサンショウウオの幼生に与える(えさやりは毎日)

ブラインシュリンプは真水では長く生きられないので、死骸になると水を腐敗させる。

そのため、トウキョウサンショウウオの飼育槽の水替えはこまめに行う。

2008年4月11日

幼生が成長してきたら、餌をイトメに変える。

このころ、ひんぱんに「共食い」が起こるので、個体ごとの個別飼育が望ましい。

食べ残しは取り除く。イトメの長期飼育は難しく、こまめに水替えをする必要がある。水温を抑えると長持ちする。

生き餌は食いがよいが、将来的に大変になるので、人工固形飼料への移行をすすめていく。

 

2001年8月7日撮影。
ビオトープを作り、一部の卵嚢を放流しておいた。

ビオトープ内で順調に育っている様子。

2001年9月7日撮影。

2001年11月16日撮影。
上陸し、ビオトープ周辺の落ち葉の下に隠れていた亜成体。

市販品の中でもっとも食い付きのよい餌。

生き餌から固形飼料への移行はスムーズに行く個体もいるが、なかなか食べない個体もいる。食いの悪い個体に対しては、ピンセットでつまんで口元で左右にゆらしてやると食べ始めることもある。

サンショウウオは外鰓が消え、肺呼吸に替わるころ(変態が完了した上陸直後)は餌を食べなくなる。

上陸した後は、基本的に動く餌しか捕食しないので、イエコオロギなどを養殖して、ふ化直後の個体をコンスタントに供給できる環境にあればよいが、固形飼料に慣らした個体でも1匹ずつピンセットで給餌する必要があるため、大量飼育は無理である。
幼生がある程度の大きさになったら、飼育を続ける個体以外は現地に戻したい。

今年、生き餌としてシルクワーム(カイコの幼虫)を試してみた。シルクワームが9mmくらいのものを大量に仕入れたが、カイコの幼虫は数日で大きくなってしまい、餌としては不向きであった。また、サンショウウオは消化が悪いらしく、皮がそのまま出てくることもあった。

 

放流の目的は、死亡率の高いふ化直後個体のの生存率を上げることや、ペットショップなどによる卵嚢の乱獲に対する保護も兼ねている。ただ、特定の卵嚢のみ保護して死亡率を下げることは、人為的であり自然状態ではない。また、遺伝子の撹乱につながるので、放流については必ず採集した場所へ戻すようにする。
カエルツボカビ、ラナウィルスに注意。

 

 

以下は、2011年3月に採集した卵嚢から育て、20か月が経過したものの様子である。

(卵嚢は4個採集し、上陸前に餌の食いのよい20匹を残して、他の幼生150匹を現地放流した)

2013年11月現在、8匹が生存記録を伸ばしている。

トウキョウサンショウウオは比較的高温にも強く、飼育下で気温25℃にも耐えうる。30℃以上の日がつづく今年の猛暑は乗り切れそうも無かったので、12℃以下になる定温器(低温器)内で飼育した。すこぶる調子が良い。

 

 

直径20cmほどの深手のプラスチック容器(フタつきのもの)
底面には熱帯魚用の土(ハイドロボール状)

ホタテガイの殻、シェルターなど

容器のフタを開ける=餌を与えられる 条件反射で一斉に顔を上げるようになる

最大のもので約8cmに成長。
人工産卵が目標。

2018年3月10日 保護活動(卵嚢の採取→孵化→現地放流)も32年目に入るが、はじめて色素変異(アルビノ?)の卵嚢を発見。

2018年3月10日

通常卵嚢との比較

2018年3月30日

順調に育っている

2018年4月6日

孵化後、共食いが始まるため、アイスボックスを利用して個室をつくる。小穴を開け、持ち上げると水替えができるようにした。

2018年6月18日

色素変異の卵は、1対の卵嚢で計約100個あったが、通常卵から育った幼生に比べて弱い様子で、ふ化率はおよそ9割、また飼育途中で3割が死亡。さらに、成長するにつれて同一卵嚢中の個体でも体色に差が見られるようになり、一部は通常個体と見分けがつかないくらい濃い体色となっていった。

上陸後は多頭飼育が難しくなるため、特に体色の白い個体15匹を残して現地放流した。(通常個体122匹+変異個体52匹)

 

2018年7月30日

連日の猛暑で死亡する個体があり、冷蔵庫で飼育

2018年8月7日